おたふく風邪は子供の頃にかかりやすい病気の一つとして広く知られているパラミクソウイルス科の「ムンプスウイルス」と呼ばれるウイルスの感染を原因として症状を発症するウイルス感染症です。
ムンプスウイルスの大きさは、直径150nm~300nm。球状の形状のウイルスでエンベロープ(たんぱく質外被膜)を保持する1本鎖RNAウイルスです。
現在確認されている範囲におけるムンプスウイルスの自然宿主は私達「ヒト」のみで感染経路は「ヒト」から「ヒト」へ飛沫感染・接触感染などによって感染する事が確認されております。
ムンプスウイルスを原因とする「おたふく風邪」という名称は通称で、医学的な正式名称は流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)と呼ばれます。
流行性耳下腺炎という名前からも解る通り、おたふく風邪は耳下腺に炎症を発症する症状をもたらす疾患で、この耳下腺部分に強い炎症をもたらすことから、おたふく風邪の独特の症状としても知られる、耳下から顎部分にかけての腫れ症状が確認されます。
耳下腺は人体内に存在する3つの唾液腺の中でも最大の唾液腺であり、おたふく風邪に代表される炎症症状や腫瘍の好発部位としても知られております。
おたふく風邪の症状の特徴について見ていきましょう。
おたふく風邪の症状の最大の特徴は主に以下に掲げる症状を発症する傾向が確認される点です。
特に耳下腺の腫れ症状が確認される場合はすぐにおたふく風邪と心配されるほど独特の症状のひとつであると言えます。
【おたふく風邪の症状の特徴】
☆高熱(38度以上、但し発熱が発現しないケースもある)
☆耳下腺の腫れ(耳の付け根から頬・顎にかけての部分)
☆首の痛み(初期症状に多い)
☆頭痛(初期症状に多い)
☆腹痛(稀に膵炎を発症する)
以上の症状はおたふく風邪の代表的な症状です。
おたふく風邪を発症すると、多くのケースで38度を超える高熱を発症します。
特に大人になってから症状を発症した場合では稀に40度を超える高熱を発症するケースもあり、男性の場合は生殖機能にダメージを受ける可能性もある為注意が必要です。
子供の場合は症状が出ても38度台の発熱で治まるケースも多く、腫れは見られても高熱に至らないケースもあります。
尚、前述した耳下腺部の腫れは腫れの大きさは個々の症状によって異なり、両方の耳下腺部位に発現するケース、そして片方の耳下腺だけに発現するケース、また時間差で片方ずつ発現するケースがあり腫れの大きさや左右の側についても個人差がある点を覚えておきましょう。
※耳下腺の腫れには個人差がある
おたふく風邪は症状を発症するまでにウイルス感染が発見されることはほとんど無いため、発熱や耳下腺の腫れが確認された頃におたふく風邪に感染した事に気づくケースが大半となります。
耳下腺の炎症による腫れ症状は症状を発症し初めてから24時間以内に確認されるのが通常で最も腫れが大きくなるのは2日目に入ってからです。
また3日目以降は発熱も炎症に伴う腫れ症状も徐々に消失していきます。
おたふく風邪の潜伏期間は、一般的に2~3週間程度、日数的には個人差はあるものの10日~20日程度の潜伏期間を得て症状を発症すると言われております。
潜伏期間とは、ムンプスウイルスウイルスが体内に侵入してからおたふく風邪の症状を発症し始めるまでのウイルスが活動期に入るまでの期間のことです。
おたふく風邪の原因ウイルスであるムンプスウイルスは季節性のインフルエンザなどと比較すると症状を発症するまでの潜伏期間がやや長い傾向にあることもひとつの特徴です。
おたふく風邪は②の潜伏期間~③の症状の発症後数日間に感染力が高くなり、症状の軽減と共に感染力も低下する特徴を持ちます。(④回復期間でもウイルスの排出が確認されるケースもあります)
おたふく風邪は一度発症すると体内に一生涯持続する抗体ができるため再感染を起こすことはほとんどありません。
その為、任意ではありますが予防接種を受けることでおたふく風邪の予防対策を行うことは可能です。
また、潜伏期間が長いムンプスウイルスは健康保菌者(体力があり感染はしているが症状を発症していない人)が二次感染の引き金となるケースも少なくありません。
予防接種などを受けておらず免疫を保持していない方は、体力が低下し免疫力が低下している時等に感染にかかりやすくなる可能性があると言えます。
おたふく風邪の予防接種はご存知の通り任意で予防接種を受ける事になっております。
おたふく風邪の予防接種で使用されるワクチンはムンプスウイルスを人工的に培養し弱毒化した生ワクチンです。
生ワクチンの接種では弱毒化されたウイルスを使用しますが、弱毒化されていてもウイルス感染による症状を発症する為、完全に安全であるとは言えません。
心配されるワクチンの副作用としては「無菌性髄膜炎」と「ムンプス難聴」が挙げられます。
無菌性髄膜炎はおたふく風邪の予防接種を受けた方の数千人に1人の割合で発症する事が確認されている病気です。
この髄膜炎の発症確率が比較的高いことから新三種混合MMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹)が現在のMR(麻疹・風疹)に変更されている点からも副作用の可能性は無視できません。
しかし、予防接種を受けずにムンプスウイルスに感染した場合の症状と比較すると弱毒化されたワクチン感染による症状は軽い点も重要なポイントです。
また、ムンプスウイルスの感染が原因で発症するとされる難聴症状をもたらすムンプス難聴は1万人~1万5000人に一人程度の割合で症状を発症する可能性があると言われております。
ウイルスの接種を行う以上はどのような予防接種でも危険性は伴う為、おたふく風邪のような任意の予防接種を検討する場合は、これらの副作用面に関する知識についても事前に把握した上で予防接種を選択していくことが基本です。