アデノウイルスは、大きさが直径75nm~80nm。
DNA遺伝子をもち、カプシド(正20面体)構造体をもっている小さな球形粒子状のウイルスです。
アデノウイルスはライノウイルス等とともに「風邪症候群」を引き起こす原因となる比較的多く見られるウイルスの一種です。
アデノウイルス細胞の表面には12本のアンテナ様の突起が見られ、たんぱく質でできた殻状のカプシドに包まれており、たんぱく質と脂質で構成されるエンベロープは保持しておりません。
アデノウイルスは夏場の屋外プールなどで広く感染するケースが多いことからプール熱(咽頭結膜熱)の原因となるウイルスとして広く認知されております。
しかし、実際はプールの水を感染経路とする感染以外にも飛沫感染や接触感染などによっても広く感染する強い感染力を保持しているウイルスでもあります。
アデノウイルスの型は、現在51の型が確認されており、それぞれ発症しやすい病気や症状からA~Fの6群に分類されております。
アデノウイルスの中でもプール熱(咽頭結膜熱)を最も発症しやすいのは「3型」ですが、他の型でもアデノウイルス感染症によってプール熱を発症するケースも多く確認されるようになってきております。
またアデノウイルス8型は、目やにや目の充血症状を発症する「はやり目」の原因となるウイルスでもあり、アデノウイルスの型によっても対象となる組織が異なる点もひとつの特徴です。
※はやり目=流行性角結膜炎
【アデノウイルスの主な型と病気】
☆3型・4型⇒プール熱(咽頭結膜熱)
☆8型⇒はやり目(流行性角結膜炎)
アデノウイルス感染症の症状の特徴について見ていきましょう。
アデノウイルス感染症の症状の最大の特徴は主に以下に掲げる3つの症状を発症する傾向が確認される点です。
【アデノウイルスの代表的な3つの症状】
☆咽頭炎(のどの腫れ・痛み)
☆結膜炎(目ヤニ・目の充血)
☆高熱(38度~40度近い高熱)
この3つの症状を発症する疾患を咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)と呼びます。
咽頭結膜熱は誰もがおそらく経験のある「夏かぜ」の代表とも呼ばれる疾患です。
プール熱の主要症状でもある為、咽頭結膜熱=プール熱と認識されておりますが、(間違いではありません)咽頭結膜熱は夏かぜの全般的な症状を示す疾患でもあります。
アデノウイルス感染症のこの代表的な3つの症状は「咽頭結膜熱の三大症状」とも呼ばれております。
※咽頭炎・結膜炎・高熱の3つの症状を咽頭結膜熱の3大症状と呼ぶ
この3大症状は3つがすべて揃って発症するケースもあれば、単体で症状を発症するケースも多くあります。
どれかひとつでも症状が当てはまる場合は、咽頭結膜熱を疑う必要があるでしょう。
病院で診察を受け、咽頭結膜熱であると診断された場合は、社会人であれば基本的に仕事の出席を控えるようにしなければいけません。
これは、アデノウイルスの感染力が強くウイルスをばら撒く原因となりかねない為です。
尚、幼稚園児や小中学生の場合は文部科学省が登園・登校の禁止を明確に指定しております。
但し、大人の場合は仕事などの都合もあり、無理をしてでも会社へ出勤しなければいけない時もあるでしょう。
このような時は、うがい・手洗いなどを徹底しナノサイズのウイルスを通さないマスクを常備するなど最低限の社会的衛生モラルを守るよう努めなくてはいけません。
特にトイレの後の手洗いは入念に行い消毒まで徹底して行うようにしましょう。
アデノウイルスの潜伏期間は、一般的に5日~7日程度と言われております。
潜伏期間とは、ウイルスが体内に侵入してからアデノウイルス感染症の症状を発症し始めるまでのウイルスが活動期に入るまでの期間のことです。
アデノウイルスは症状を発症するまでの潜伏期間がやや長い傾向にあることもひとつの特徴です。
もし1週間以内にプールの授業や、プールの習いごとなどがあり、咽頭結膜熱の症状を発症した場合は、集団感染の予防も含めプールの管理者へ報告しておくとその後の感染拡大の予防手段となるかもしれません。
特に潜伏期間が長いアデノウイルスは健康保菌者(体力があり感染はしているが症状を発症していない人)が二次感染の引き金となるケースも少なくありません。
感染症を発症したプールに自分の子供が通っていた事を確認。しかし我が子は症状は出ていない。
もしこのようなケースであっても自分自身(このケースでは大人・親にあたる)が体力が落ちている状態であった場合。
このような場合は、子供が元気であってもウイルスを保有している可能性があり大人が感染してしまうケースも出てきます。
尚、プール熱は文部科学省が定める学校伝染病(※正しくは学校において予防すべき伝染病)の第2種に指定されている伝染病のひとつです。
学校伝染病の第2種は、飛沫感染を伴い子供がかかりやすく、学校内で流行する可能性が高い伝染病が指定されております。
文部科学省が学校伝染病として指定されている「第2種伝染病」には以下のような伝染病が指定されております。
咽頭結膜熱(プール熱)の場合は、主要の症状が治った後2日間の登校・登園は禁止されております。ご参考までにご確認下さい。
☆学校において予防すべき伝染病(学校伝染病第2種)☆
【~文部科学省指定~】
☆百日ぜき
☆麻疹(はしか)
☆流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)
☆風疹
☆水痘(水ぼうそう)
☆咽頭結膜熱(プール熱)
☆結核
アデノウイルス感染症は幼児~小学生期の子供に圧倒的に多く発症するウイルス感染症です。
しかし幼児・子供に限らず、大人であっても感染症の症状を発症する可能性をもつウイルス疾患でもあります。
大人がアデノウイルス感染症に感染するケースの大半は前項でも解説した通り子供から感染する二次感染のケースが大半です。
ですから乳幼児や園児・小学生がいる家庭のお父さん、お母さんはアデノウイルス感染症に感染する可能性が高いと言えるでしょう。
二次感染の主な感染経路としては、
☆くしゃみなど飛沫感染(ひまつかんせん)
☆便などの糞口感染(ふんこうかんせん)
☆キスなどの接触感染(せっしょくかんせん)
などの感染経路があります。
アデノウイルスは飛沫感染するウイルスですから、直接触れなくてもウイルスは空気中にも漂っているので容易に感染することになります。
ですから、赤ちゃんのおむつを交換する際は、使い捨ての手袋などを使用し、かつマスクの着用をすることも感染予防のひとつの手段となります。
尚、大人がアデノウイルス感染症に感染した場合の症状も、幼児・子供の症状と同様の症状を発症します。
しかし乳幼児などの症状と比較すると大半のケースで症状が軽症であるのが特徴です。
症状発症後は長くても1週間程度で体調も体力も回復してきます。
アデノウイルス感染症は、子供の場合は圧倒的に多くのケースでプール熱による感染が多くなります。しかしアデノウイルスがもたらす疾患としては、この他にも
☆胃腸炎(いちょうえん)
☆急性呼吸器感染症(きゅうせいこきゅうきかんせんしょう)
☆出血性膀胱炎(しゅっけつせいぼうこうえん)
☆流行性角結膜炎(りゅうこうせいかくけつまくえん)
などの疾患を発症する可能性をもつウイルスでもあることを把握しておく必要があります。
これらの疾患の発症につながった場合はやや重い症状を発症するケースもあり治療期間が長期間に渡るケースも出てくるので注意が必要です。
アデノウイルス感染症の治療法について見ていきましょう。
アデノウイルス感染症はその名の通りウイルス性疾患ですが、現在のところアデノウイルス単体に効果のある抗ウイルス剤はありません。
ですから、アデノウイルス感染症の治療に関しては自然治癒力による回復を積極的に考えて安静第一の治療を行うことになります。
治療の基本は、何よりも安静にすごすこと。
アデノウイルス感染症が引き起こす疾患には様々な疾患がありますが、代表的なプール熱(咽頭結膜熱)の場合は、
①咽頭炎症状に関しては抗炎症剤内服薬の服用
②結膜炎症状に関しては点眼治療
③高熱症状に関しては解熱剤の投与
などの対症療法が治療の基本となります。
※対症療法=発症するそれぞれの症状に対して治療法を検討する治療法
尚、高熱は比較的長期的に継続するケースが多く4日間~7日間程度に渡り熱が続くケースがあります。
発熱の発症時は、寒気やふるえを感じることもあるので暖かい服装を心がけましょう。
のどの腫れや炎症を伴う咽頭炎症状は3日間~5日間程度続くケースがありますが、完全にのどの痛みがなくなるまでには1週間程度の期間が必要になるケースもあります。
目ヤニや、目の充血症状に関しては10日間前後、症状が継続するケースが多く、点眼剤などの使用を行い治療を続けていくのが基本です。
基本的な3大症状がすべて治まるのは1週間~長くても2週間程度の治療期間が必要となるため、子供が感染者の場合は、お父さんお母さんはある程度長期的な治療を行う心構えが必要です。
尚、症状が治まっても、体内に侵入したウイルスが死滅しているとは限りません。
アデノウイルスは症状が治った後も2週間~時には1ヶ月程度に渡り、ウイルスの排出を続ける為、糞便などからの2次感染には最大の注意が必要です。
その為、プール熱を発生した児童は、基本的に1ヶ月程度プールへの参加はできません。